キャラメル横丁 -> 北名古屋市(旧・師勝町)歴史民俗資料館 企画展 -> エッセイ「大須ゆめ横丁2」

HANZO
駄菓子エッセイ
昭和20〜40年代の名古屋・大須通商店街界隈
あそびっ子 (1)〜(5)  (6)〜(11) 連載(12)〜(18)

(6)「コマ」続き

 どんな世界でも名人と呼べる子供がいるもので、町筋の子供連のなかにも噂になるほどのコマ名人がいた。
「しげぞう」とコマであそんでいると「まさ」がやってきて「これができるか」といい、わたしのコマを取り上げると「コマヨーヨー」という技をやりだした。
 コマを横に寝かせて紐に添わせ、心棒を指で弾いてから、ヨーヨーのごとく紐を操って横向きにコマを廻しつづけるのである。
 なおかつ、コマを放り投げては紐で受けとめ何度も何度も繰り返すのである。
 失敗などしない。ほうっておけば、一時間でもやっていそうに思えた。(あとで試みてみたが、とてもできなかった)よその町筋でもやっている子をみかけたが「まさ」のような鮮やかな手さばきではなかった、天と地ほどの腕の差があった。


(7)

 「ゆうちゃん「しょうや」やろううよ」
 ある日、祐二がいつものように馴染んだ町内で遊んでいると声がかかった。
 きょういちばんの大勝負に勝ち、一息いれていたところにである。ズボンの左右のポケットにはこのあたりでは「しょうや」といっている角型のメンコ札がぎっしり 入っている。
 (生半可な勝負なんかしたくない)と思っていたが
 「どんだけ、もっとるの」と聞いた。
 「こんだけ」と見せた呉服屋のみつるちゃんの両手には新品の「しょうや札」が三十枚ほど載っていた。
 みつるちゃんは、この横町にくることは滅多になかったがこの二、三日、よくみかけた。
 あそびっ子の祐二と違って、みつるちゃんは勉強する子であった。 小学校5年生だから、ひとつ年下でもあるし、朝、分団で通学するとき以外は話しをしたこともなかった。


(8)

 「もんしゅうと抜きとどっちがやりたいの」
 祐二は新品の札に目がくらんでその気になってきた。
 「抜きがやりたい」とみつる
 「やりかた、しっとる?」
 「うん、見とったから覚えた」
 祐二はこのあたりでは、腕利きだとひそかに自負している。手慣れた連中と何度も競って(ときには負けるが最後は俺が勝つんだ)と思っていた。(弱いもんいじめで、なんだかいやだな)とも思っていた。
 「そんなら、やろうか。何枚だすの」
 「こんだけ、全部」
 「全部出すの、ええの」
 「うん」
 「わかった、そんならおれが抜き札だすわ」といい、胸のポケットから大事そうに絵札を取り出した。アメリカ映画の三銃士の主人公でダルタニヤン(エロールフリン)の肖像が描かれた青い札だった。
 共に計って出し合った札の真ん中あたりに抜き札を入れて、勝負が始まった。


(9)

 祐二は大胆に札の山を崩していく。みつるちゃんは作戦を考えてきたらしく、抜き札から離れたあたりを不器用な手つきでつっついているばかりだ。
 絶好の機会が訪れるまで耐えて待つ作戦のようだ。(こいつ、ずるいやっちゃ。そんなこっちゃ俺には勝てんぞ、うじうじ、じみにばっかりしとると俺がすぱっと抜いてしまうぞ、なんにも勝負せんと負ける奴はあとで泣く奴なんだ、みつるちゃんもきっとそういう奴だ)と思っていた。
 祐二は、隠し札を持っていた。溶かしたロウソクをたっぷりと塗り込んだ、
 とっておきの札だ。ここ一番で使うようにと胸のポケットのおくにしまってある。
 家で何度も何度も練習しその札のパワーを確かめてあった。「抜き」はだるま落としの要領だ。ちょっとでもはみだした札に手札を当てると、当てられた札が飛び出す。
 手札が重ければ重いほど固ければ固いほど当然威力が増す。蝋ぬりの札は並の札の数倍の威力があった。
 勝負が進み、山が「だいぶ」うすくなってきた。抜き札が「ちらり」と顔を見せてきた。ほとんどが祐二の労だった。
 (もうちょっとかな、手札をうちこむ隙がもうちょっとできたら、勝負をかけてやる。みつるちゃんが考えてるような、誰でもが抜ける姿になる前に目のさめるような手際で抜いてやるわ)と思っていた。


(10)

 (いまだっ!今度の番でやってやる。みつるちゃんもなんだか落ち着かんようだし、そろそろだと思い始めたかなぁ)
 胸ポケットからとっておきの切り札をそっと取り出した。つるりとしたロウソクの手触りを確かめ、隙を覗いてみた(やれるぞ)と思った。
 狙いをさだめ、腕の振りを少なく、手首のスナップを僅かに利かして、コツンと抜き札の角に当てた。
 スパッと一枚だけ鮮やかに札が飛び出していき「はらり」と地面に落ちた。
 「ダルタニアン」の顔が笑っていた。
 「みつるちゃんの負けやな、5枚だけ返したるから、どっかで、だれかとやって、元を取り戻してこいっ」と祐二は云い、札をかき集めて、ポケットにねじこんだ。
 いまにも泣き出しそうなみつるちゃんの顔を見るのがつらくて、そうそうに場を離れていった。


(最終回)

 夕暮れになり、お腹もすいてきたので、家に帰ることにした。ポケットもぱんぱんに膨らんでいるし、きょうの一日の充実を噛みしめて浮き立つような気分だった。
 「ただいま、腹へった」と云って、土間に入ると。
 「祐二。おまえは、みつるちゃんの「しょうや札」を盗ったんかぁ」と母ちゃんの大声がした。
 「母ちゃん、盗ったんと違うぞ、勝負で勝ったんだぁ」
 「そんでも、みつるちゃんのお母さんがいいにきたわ、みつるちゃんが買ったばっかりの「しょうや札」を全部おまえに盗られたいって、泣いて帰ってきたそうだ。ポケットの札全部出して見やぁ」という。
しぶしぶ出すと、
 「ようけ持っとるがぁ。半分返してやりゃあ」といって、取り上げられてしまった。
 「いかん、いかん。それは俺のだ」といっても、母ちゃんはしらん顔で外へ出ていってしまった。
 自分の部屋へ入り、残った札を確かめてみると、大事な「ダルタニアンのエロールフリン」がなかった。

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これにて「あそびっ子」を終わります。
ご愛読ありがとうございました。


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《HANZOさん》
名古屋・大須通商店街で生まれ育つ。現在 グラフィックデザイン、WEBデザイン等を仕事にしている。サードワークス代表




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